IBEC健康維持増進住宅実例集へ出稿して頂い た原稿です
温水循環パイプを備えた重量土間基礎と 高性能断熱材と内外壁間の大気通気層を取り入れた外断熱気密工法による防外音,蓄熱,耐 湿度,耐寒,耐暑,省エネ性能を実現した健康維持増進住宅
特徴1 建物の構造
一般に重い物体は冷めにくい。大屋根形式 の中2階建で,地冷熱を直接利用する重量土間基礎 の上に家屋部を載せた構造をとっている。施工は外断熱気密工法に よっている。家屋部内部と外気との間の断熱性を高めるために,家屋部を囲む外壁と内壁との 間にはアルミニウム箔によってスッポリ包装した高性能断熱材を充 てんし,内外壁および包装アルミニウム箔間に家屋部下部に設けた通気口から空気の流れを取 り込み,家屋部上部に設けた排気口から排出するようにしている。 この工法によると,家屋全体の構造は付加的に防外音構造となる。
特徴2 土間基礎の構造
土間基礎は鉄筋コンクリート製で,幅1mの縁をもつように内部を刳り貫いた周辺寸法10.01 m x7.28高さ25.0 cmのマス形状構造体によって支えた同上周辺寸 法をもつ厚さ30.0 cmの重量厚板 の一体(重量 トン)か らなっている。重量厚板とマス形状構造体の間の刳り貫きには,土間基礎と地下土層との熱接触を良好に保つ ために建物周辺の土壌を密に充てんし,重量厚板の底面は周辺土壌面と同 一面を形成するようにしてある。重量厚板の上面 には温水循環用パイプを敷設,モルタルによって固定し,床材をモルタル面に接着する方式を とっている。温水循環用パイプとモルタル材との間の熱接触ならび にモルタル材と床材との間の熱接触は極めて良好である。温水循環用パイプは玄関タイル床下 面を除くモルタル面全体が均質温度となるように取り付けてある。 したがって極寒の一日であっても,トイレ内部と他室との温度差あるいは浴室と他室との間の 温度差は生じない。
特徴3 間取り
大屋根方式中2階建てとしたのは,1階の天井高さを通常よりも30 cm高くしてい ることと,2階と1階重量厚板との熱接触を高めるためである。2階は幅1 mの廊下に3室をL字型に配置している。奥の室は屋根裏型で, 他の2室は大屋根から突出する形に設けた通常高さ の部屋である。1階は施工開始当時の施主が退職年齢であった こともあって,施主夫妻の高齢化を想定し,玄関タイル床と1階床との間ならびに浴室床と1階床との間を除きバリアフリーとした。1階は2寝室,キッチン兼居間,トイレ,洗面所兼洗 濯用室,浴室からなるが,廊下は設けていない。キッチン兼居間の調理室を中心に移動しやす いように各室を配置し,各室を区切るドアはすべてスライドドアとし,窓はすべてペアガラス 窓としている。将来の車椅子使用を想定し,2寝室から各室への車いす移動が容易に行えるよう十分のスペース をとっている。
特徴4 屋内温度調節
冬期の屋内温度(室温)調節は主として温 水循環パイプに50oCに設定した温水を適当時間循環させることに よって常時生活適 温に保つようにしている。温水は灯油用温水ポンプによって温水パイプに供給している。温水 循環による室温加熱はエアコンや灯油ヒーターや電気ストーブによ る局所的な温風加熱ではなく,床面全体からの面加熱であるので,極めてマイルドな加熱と なっている。室温は各室に取り付け た市販のデジタル温度計でモニターしている。蓄 熱に関連した家屋の特徴は秋彼岸から春彼岸にかけての晴天の日に日光を家屋に取り入れるこ とができることにある。日光の取り入れは天空における太陽位置 と,他家家屋と太陽位置との関係に大きく左右されるが,日光による加熱は放射熱加熱である ので,密閉室の日光加熱は外気温に左右されない。温水循環による 室温調節の例として,平成12年12月~13年1月の期間のものを記すと,温水循環時間を朝方5:00~7:00,夕方6:00~7:00としたものとなる。この例では連日,室温を22.5~24.5oCに制御できているが,日光の取り入れ方によ り夕方の温水循環は何日か取り止めている。ただし,2階室温はこの温度よりも2oC程度低めで,場合によっては補助的にエアコ ンを作動させる。上の事例は,このような室温制御を可能にする熱量が本質的に土間基礎に蓄 えられたことを示す。この蓄熱性は次のような冬期事例によって示すことができる。平 成12年1月の中旬の3日間,温水循環を停 止し,すべての窓にカーテンを下して外出し,3日目の夕方5時頃の室温を調べた ことがある。1階の室温は17oC,2階は15oCで,土間基礎蓄熱の有効 性を体感した。蓄 熱性は,夏期の室温上昇を抑える働きもする。外気温度が35oCを超える酷暑日であっても,エアコンを使用 することなく1階温度は27oC止まり,2階温度は29oCの程度である。しかし,このような温度は熱 中症発症の要因となるのでエアコン使用としている。2階奥室のエアコンと,階下のキッチンのエア コンをともに25oC弱風のドライ設定にし,午前11:00~午後3:00の作動で室温を上下階ともに26oC以下に保持することができる。作動時間を適 宜設定することにより,エアコン通電時間を抑えつつ室温を26oC以下に調節することができる。従って,1日の室温は年間を通して22.5~26oCの温度範囲に調節できている。
特徴5 家屋内湿度調節
居住を始めてからの課題は冬場における乾 燥,すなわち,家屋内(室内)湿度の極端な低下であった。大容量の加湿器を用いても,24oC程度の室温における湿度を38%以上に調節することは不可能であった。種々 の検討から,浴室から湿気を多量に含んだ空気の流れを1階各室の送る可能性があることが判明した。 換気はキッチン,トイレおよび浴室からの一体排気方式をとっているが,浴室タイル壁面を温 水で濡らし,かつ浴槽の蓋を外して一体排気を停止すると湿気に富んだ空気の流れが1階全体に広がることがわかった。室内湿度は 例えばキッチンに市販の湿度計を置くことによってモニターしている。外気湿度が氷点下 の外気温において20%を切っても,24oC程度の室温において室内湿度を50%を超える湿度に加湿することができる。な お,モニターしている湿度の読みに従って浴室タイル壁面への温水放射を停止したり,さらに 浴槽蓋を被せたり,一体排気方式に戻すことによって室内湿度を常時50%程度になるように調節することができる。一 体排気方式の停止は,トイレ臭気の拡散を来すから,その程度を勘案しつつ停止を行う。ま た,使用しているトイレ具にパワー脱臭の機能があれば,これを適宜使用することによって臭 気拡散を抑えることもできる。
以上に記したような家屋の特徴を生かして, 生活すれば,室温22.5~26oC,室内湿度50%程度とする健康維持増進住宅としての運用ができる。このような運用によって,それだけで冬期のインフルエ ンザ感染は十分に抑えることができることは勿論である。